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Japanese

WORLD OF IOT通信_2017_vol2_Repo.1 -動き出した製造業でのIoT、現場の知恵をITに注ぐ

WORLD OF IOT/SEMICON Japan 2016 レポート
動き出した製造業でのIoT、現場の知恵をITに注ぐ
「Industrial IoTフォーラム デジタル化する製造業競争」より

株式会社エンライト
伊藤 元昭

 

世界各国で製造業への回帰が進み、製造業でのイノベーションが加速している。IoTやデジタル化による製造業を取り巻く環境は、生産用の機器や設備を供給するサプライヤー側とそれを活用するユーザー側のそれぞれで大きく変化している。1年前、次世代製造業の基盤作りの主導権をドイツと米国のどちらが取るのか、そして日本はどのように追随するかが注目されていた。これが2016年には、それぞれが歩調を合わせ、グローバルな協力体制が整いつつある。

SEMICON Japan 2016 / WORLD OF IOT の2日目12月15日に開催された「Industrial IoTフォーラム デジタル化する製造業競争」では、日本、ドイツ、米国で、これからのIoTシステムの発展を支える生産システムサプライヤー3社のトップエグゼクティブが登壇。次世代を見据えた技術とビジネスの展望、そしてそれぞれの成長戦略を語った。

 

マイスターとデジタル化の強さを融合

シーメンス 島田氏
シーメンス(株)
デジタルファクトリー事業本部
専務執行役員 事業本部長
島田 太郎

まず、シーメンス デジタルファクトリー事業本部 専務執行役員 事業本部長の島田太郎氏が、「インダストリー4.0の実現に向けたデジタルエンタープライズの構築」と題して講演した。Industrie4.0時代の製造業で生き残るためには、IoTなど新たなデジタル技術をフル活用したビジネスモデルへの変革が必須になる。島田氏は、Industrie4.0の実現に向けてシーメンスが推進する「デジタルエンタープライズ」と呼ぶコンセプトを解説。また、それを実現するための具体的なソリューションや先進事例も紹介した。

過去14年間の世界各国のGDPを見比べると、最も成長しているのは米国である。ドイツでは、この間の米国の成長を、デジタル化による変革の効果と捉えている。そして、ドイツのものづくりの強さの源泉であるマイスターの力とデジタル化の効果を合わせた新しい製造業の姿を模索。これがIndustrie4.0の出発点となった。

Industrie4.0をビジネスモデルとして成り立たせるためには、それが世の中にないものをより早く作る仕組みとなる必要がある。そこで注目したのが、多様な顧客それぞれのニーズに合った仕様の製品を作り分ける「マスカスタマイゼーション」である。様々な仕様の製品を、モジュラー化や標準化をベースにした組み合わせで効率よく生産できるようにするイノベーションを追求している。

 

設計を終えたら5分後には生産可能に

こうしたイノベーションを生み出すためには、ものづくりに関する知を深めるだけではなく、より多様な知を探索する必要がある。既知の技術の改善だけに注力すると、進化できる方向を制限する壁を作ってしまう可能性があるからだ。航空機のような大規模システムの開発では、細分化された小さなシステムの改善だけにとらわれず、大局を見据えてシステム開発を進めるための方法論が確立されている。「システムズ・エンジニアリング」と呼ばれる方法だ。Industrie4.0とは、システムズ・エンジニアリングを実践することと言い換えることができる。

Industrie4.0を実現するためには、技術的な背景が異なる業界同士が、取り組む課題を俯瞰しながら円滑に議論を進める必要がある。ドイツ政府のIndustrie 4.0構想を受けて産業関連3団体が立ち上げた事務局、Platform Industrie4.0は、参照すべき標準技術を体系化した「リファレンス・アーキテクチャー・モデル・インダストリー4.0(RAMI4.0)」を公開した(図1)。技術体系の全体像を3軸で表現したものだ。3つの軸とは、(1)開発から生産、メンテナンスまで製品のライフサイクルを特定する軸、(2)経営情報システムや制御機器など企業や工場の管理システム内での位置を特定する軸、(3)ビジネス・機能・情報・コミュニケーション・インテグレーション・アセットといった何について扱うのかを示す軸である。このモデルに基づいて対話することで、業界を超えた議論が可能になっている。


図1 Industrie4.0の全体像を俯瞰するための体系「RAMI4.0」

 

しかし、「日本には、残念ながらRAMI4.0のような共通言語がまだありません。このため、多くの企業が、自社だけで解決すべき課題や解決策を抱え込もうとしています。Industrie4.0では、課題や解決策をオープン化して各企業が一丸となって実現を目指すことが重要であり、他社に託すべき部分を見極めることが、システムズ・エンジニアリングを効果的に実践するための要諦になります」と島田氏は言う。

シーメンスでは、こうしたオープン化を効果的かつ効率的に進めるため、「デジタルエンタープライズ」と呼ぶ情報基盤の構築の重要性を訴えている。社内で扱う情報を細分化し、有機的に結び付けて、必要な情報をすべての人が共有・活用できるようにする情報基盤だ(図2)。IoTや人工知能、3Dプリンターなど最先端の技術も、デジタルエンタープライズが構築できていなければ有効活用できない。

図2 事業情報を共有・活用するための情報基盤「デジタルエンタープライズ」
図2 事業情報を共有・活用するための情報基盤「デジタルエンタープライズ」

 

シーメンスでは、設計が終わったら5分後には製品を生産できる仕組みの構築を目指しているという。それを実現するため、デジタルエンタープライズを具体化し、PLMといった製品企画・設計・シミュレーションで用いるソフト、工場内のMES/MOMといった生産計画・品質管理をするソフト、工場内をコントロールしているソフトを一体化して活用できるシステムを構築している。

 

IoTやデジタル化のメリットを生かし切る

GEインターナショナルインク 新野氏
GEインターナショナルインク
GEデジタル
インダストリアル・
インターネット推進本部長
新野 昭夫

次に、GEデジタル インダストリアル・インターネット推進本部長の新野昭夫氏が、「産業向けIoTにおけるGEの戦略 ~Predixのアーキテクチャと事例紹介~」と題して講演した。同社は、産業向けのIoT、「インダストリアル・インターネット」に向けたクラウド・プラットフォーム「Predix(プレディックス)」を外部企業にも積極的に提供している。新野氏は、そのアーキテクチャと基本機能を解説。ユーザー企業がPredixを使ってビジネス上の成果を導き出すための基本プロセスを紹介した。

 

図 Predix
図:エッジデバイスからクラウド、モバイル環境までカバーするPredixのアーキテクチャ

 

交通分野でのUber社や宿泊分野でのAirbnb社など、デジタル化した情報をフル活用したマッチングサービスで成功した企業が続々と現れている。こうした企業の共通点は、一般の消費者が持っている資産の稼働率を上げるために、デジタル化した情報を活用することでサービスの提供者と利用者の双方に利する価値を生み出している点だ。こうした発想は、産業界にも適用可能である。企業が保有している装置、設備、プラントなどの稼働率を上げることで、既存事業の効率が向上するだけではなく、まったく新しいビジネスが創出できる可能性がある。

過去25年間の生産性向上のトレンドを振り返ると、1990年から2010年までの20年間は「カイゼン」や「シックスシグマ」などの生産性向上活動によって年率4%のペースで生産性が向上していた。ところが、それ以降は頭打ちの状態にある。これは、新しい生産性向上策であるIoTや企業情報のデジタル化のメリットを十分に生かし切れていないからだ。新野氏は、「IoTやデジタル化を単なるタスクとして捉えるのではなく、企業文化の変革につなげることこそが、企業競争力の強化につながります」と強調した。

 

現場で培った知見を注ぎ情報処理基盤を構築

GE Digitalでは、顧客企業でのIoTの活用やデジタル化を推し進める際、まずどのような成果に寄与するのか、目的を明確にすることから始めるのだという。目的が明確でないと、IoTの活用やデジタル化が目的化してしまい、何の成果も得られないということになりかねないからだ。ビッグデータ解析やAIといった最新のIT技術は、もちろん強力な武器になる。しかし、そうした技術を用いて、これまで製造業を営む中で培った知見を強化し、新しいビジネスの創出や新しい業務手法の実践につなげることこそが重要になる。

GEが、工場やプラント、航空機のエンジン、鉄道などの管理・制御での実績をベースにして構築した産業用情報処理プラットフォームがPredixである。IoTを活用して、装置や設備の状態や運用状況のデータを現場からリアルタイムで収集し、ビッグデータをクラウド上のアプリケーションで解析することで、新しいビジネスの構築や新しい業務手法の実践につなげるためのものだ。「デジタルツイン」と呼ぶ、管理対象となる機器や設備とまったく同じ挙動を示すコンピューター上のモデルを通じて、状態や運用状況をリアルタイムで見える化。同時に管理・制御での意思決定を支援する。

 

図 デジタルツイン
図:発電施設で稼動するガスタービン機器の「デジタルツイン」(イメージ)

 

近年、IoTを活用した産業用情報処理プラットフォームを、様々なITベンダーが提供するようになった。新野氏は、「Predixのクラウドのコア部分は、オープンソースのソフトを利用しているため、他のソリューションと大きな違いはありません。しかし、予知保全を可能にするデータの解析や設備のモデリングなど、Predix上で利用するアプリケーションは、管理対象が置かれた現場をよく知るGEの知見やノウハウに基づいて作られています。適切なデータを収集し、的確な判断を下すことについては他社ソリューションの追随を許しません」と違いを強調した。

さらに、情報収集する現場の状況に則したセンサーや通信、データの変換・分析、セキュリティーなどでも、現場をよく知る企業ならではの技術が注がれている。例えば、鉄道に適用する場合には、遠隔地で高速走行する列車の振動や温度の環境が厳しい中で、必要なデータを取得できる技術を保有している。さらに、列車の位置や運行計画を常時監視して、ハリケーンや不測の事態などが発生した場合には予想される被害の予測や被害を最小化するための対処法を直ちに算出し情報を提示する。

 

見える化のためのIoTから自律制御のためのIoTへ

ファナック 稲葉氏
ファナック(株)
取締役 専務執行役員
ロボット事業本部長
稲葉 清典

最後に、ファナック 取締役 専務執行役員 ロボット事業本部長の稲葉清典氏が、「ファナックが考えるIoT時代に対応したこれからのものづくり」と題して講演した。産業用ロボットの知能化や工場の稼働率を向上させる取り組みを進めてきた同社は、これまでのIoTを活用した事例と今後の展望を語った。

ファナックは、同社のコア技術である数値制御(NC)技術やサーボ技術に基づくファクトリーオートメーション(FA)の強みを生かして、ロボット事業に注力している。そして、「壊れない」「壊れる前に知らせる」「壊れたらすぐに直せる」の3つをスローガンとして掲げ、信頼性向上に取り組んでいる。さらに、同社製産業ロボットの稼働率を向上させるための「ゼロダウンタイム(ZDT)コネクテッド ロボット プロジェクト」をCisco Systems社と共同で開始。ロボットが搭載するモーターからデータを収集し、それを分析することで故障の予兆をいち早く察知して事前に対処できるようにするサービスを提供している。既に、約1万台の産業ロボットの稼働状況のデータをファナックのデータセンターのZDTサーバーに集め、集中管理を行っている。

さらにZDTプロジェクトの取り組みを拡張し、詳細かつ効果的な管理・制御を目指した「FIELD (FUNUC Intelligent Edge Link and Drive) System」という情報処理システムの開発プラットフォームを、コネクティビティー技術で実績を持つRockwell Automation社と高度なディープラーニング技術を保有する日本のベンチャー企業Preferred Networks(PFN)も加えて構築した。

 

ロボット同士が会話し共に学習する

「FIELD Systemは、機械同士、ロボット同士で協調を行い、よりよい作業を学習し、自律制御していくための基盤です」と稲葉氏は言う。工場に置かれた機械やロボットが学習した効果を操業へと迅速に反映させるため、現場に近い場所でデータの分析や学習を行う点が、FIELD Systemの特徴である。クラウド側では、最小限の管理データだけを上げる。これによって、処理や制御の遅延を最小化し、同時にセキュリティーの向上も図っている。

工場内の装置やロボットが、ファナック製だけで占められることは稀だ。このため、FIELD Systemでは同社製以外の機械もつないで動くことを想定している。さらに、機械やロボットからデータを取り出すためのAPIを公開し、他社がFIELD System上で動作するアプリケーションを開発することもできる。2016年11月に開催された「第28回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2016)」では、展示会場内の各所に置かれた80社の産業用機械250台をつなぎ、稼働状況を一覧できることを示した。

「現時点の人工知能は、完全に自律して学習するというわけにはいかず、利用分野は限られています。しかし、分野を限れば、熟練したオペレーターよりも高い作業性を発揮することが可能です」(稲葉氏)と言う。これからは、ロボット同士の動きが干渉しないような協調動作、リアルタイム性を要するアプリケーションについても人工知能を利用してゆく方法も検討してゆくとする。

 

 

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