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SMART通信 2018 Vol.5 Repo.1

SMART通信 2018 Vol.5 Repo.1

SMART APPLICATIONS ZONE

SEMICON Japan 2018 未来を探る視点2
次世代車は先端半導体技術のテクノロジードライバーである

 

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

トヨタ自動車とソフトバンクは、2018年10月4日、新しいモビリティーサービスの構築を目指して戦略提携した。自動車産業の姿が、これから大きく変わろうとしていることを印象づける提携である。その記者会見に合わせて開催されたトヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏とソフトバンク 会長兼社長の孫 正義氏のトークセッションの中で、孫氏は「これからのクルマは半導体の塊になります」と語った(図1)。

次世代車の進化の方向を端的に表現する言葉として「CASE」がある。すなわち、「Connected(つながる)」「Autonomous(自動化)」「Sheared (シェアリング)」「Electric(電動化)」というこれからのクルマの4つの進化軸を示したものだ。これら4つの進化のいずれも、半導体産業に新たな需要をもたらす。1台のクルマに投入される半導体の量から見れば「半導体の塊」、さらに投入される半導体の種類から見れば「半導体のデパート」といった表現がぴったりの状況になることだろう。

図1

図1「これからのクルマは半導体の塊になる」

トヨタ自動車とソフトバンクの戦略提携記者会見でのトークセッションの様子
出典:トヨタ自動車

 

クルマは半導体のテクノロジードライバー

次世代車の創出において、半導体の重要性は高まる一方だ。完成車メーカーにとっては、高度な半導体をいち早く手中にすることが、競争力のあるクルマづくりの必要条件になったといっても過言ではない。

これまでにも、クルマには多くの半導体が投入されてきた。「走る」「曲がる」「止まる」といったクルマの動きにかかわる制御を電子化して、安全・安心・快適を追求してきた。ただし、そこに投入されてきた半導体チップは、パソコンやスマートフォンに投入されるものに比べれば、数世代後の技術的に成熟したものがほとんどだった。ところが、次世代車で求められる半導体の多くは、最新技術を投入した最先端チップになる見込みだ。実績を積んだ既存半導体チップをクルマ向けに応用する時代から、クルマのために最先端チップを開発する時代へと、確実に変わっていこうとしている。もはや、クルマは半導体技術の進化をけん引する応用、「テクノロジードライバー」となったとさえ言えよう。

 

上意下達の関係では次世代車は作れない

クルマの開発における半導体の存在感が高まるにつれて、自動車産業の構造が根底から変わり始めている。これまの自動車産業では、サプライヤーが階層的に積み重なるピラミッド型の産業構造を形成してきた。より効率的なサプライチェーンを構築するため、完成車メーカー各社が、「ケイレツ」と呼ばれるサプライヤー企業群を養成してきた結果である。そして半導体メーカーは、完成車メーカー、電装システムを作るティア1の電装メーカーに続く、ティア2に位置づけられていた。

こうしたピラミッド型産業構造の中で進められるクルマの開発では、自動車メーカーの意向を受けた電装メーカーが半導体メーカーに技術的要求を伝える、上意下達の技術選定が行われてきた。ところが、最先端の半導体チップの投入が価値向上に直結する次世代車の開発では、段階を経て伝言ゲームを行っている余裕はなくなった。最新の半導体技術を投入したチップをいち早く入手し、市場に送り出すクルマに、いかに早く採用するかが勝負になったのだ。今の自動車産業の状況は、最先端のマイクロプロセッサーやメモリーの発売に合わせて新製品を市場投入するパソコン市場に似た様相になったと言える。

 

自動車版オープンイノベーション

そして、完成車メーカー、電装メーカー、半導体メーカーの関係は、次世代車の開発初期からビジョンを供給し、同時並行的に開発を進めないと競争力を誇示できないようになってきた(図2)。そして、実際に、自動車産業の構造が徐々に変化しているのである。

図2

図2 次世代車の開発に際しての自動車産業の構造変化
出典:筆者が作成

 

こうした自動車産業の構造変化は、ドイツにおいて早くから見られた。ドイツでは、完成車メーカー、電装メーカー、半導体メーカーの3社が対等な立場で技術開発を進める体制は、「パートナーシップ・トライアングル」と呼んでいる。今風の言葉で言い換えれば、自動車産業版のオープンイノベーション体制だと言える。

そして、ドイツの自動車産業は、こうした開発体制の成果を既に市場投入したクルマに注ぎ始めている。例えば、電装品に電力を分配するシステムでの電力供給の切り替えに、かつては電磁的にスイッチを開閉するリレーが使われていた。しかし、リレーを半導体スイッチに置き換えた方が、切り替えスピードの速さ、サイズの小ささ、信頼性の高さなど多くの面で利点がある。ドイツでは、この点をロジカルに評価し、いち早く半導体スイッチへと置き換えていった。これは、パートナーシップ・トライアングルの下で、早くからその有用性に対するコンセンサスが業界内で得られていたからだ。

ところが、日本車では新技術の導入にリスクを感じて導入が遅れた。半導体メーカーが、完成車メーカーに、技術の優位性をプッシュしきれていなかったのだ。半導体メーカーから見れば、完成車メーカーは顧客の顧客であり、技術提案などといった出すぎた行為に躊躇したのは分からないではない。そして、今では日本の完成車メーカーは、この分野での実績がある外資系半導体メーカーから半導体スイッチを購入し、世界の潮流を後追いする状態になってしまった。

完成車メーカーの意向を汲んだ技術を供給するだけでは、発想の殻を破ることはできず、イノベーションは生まれない。リレーの置き換えの例は、次世代車開発を進めるための体制を考えるうえで、重要な教訓を残したと言えよう。

 

自動運転では半導体メーカーが、EVでは完成車メーカーが技術を先導

図3

図3 半導体メーカー主導で進む自動運転車の開発

(左)2020年の東京オリンピックの開催に合わせてNVIDIA社と日本のベンチャー企業ZMPが共同開発している自動運転タクシー
(右)AIによる推論処理を実行する自動運転車向けコンピューター
NVIDIA DRIVE Pegasus AI コンピューティング プラットフォーム
出典:NVIDIA社

 

一方、電気自動車(EV)などの動力源であるモーターの駆動回路(インバーター)に搭載する半導体チップの開発では、完成車メーカーや電装メーカーが技術開発を主導しようとする動きが目立つ。これは、日本で特に顕著に見られる動きであり、トヨタ自動車がハイブリッド車の開発をリードし、同社が自社の系列企業での半導体開発にこだわったことの名残である。電力利用効率の向上に寄与するSiCパワーデバイスを開発。それを採用した「パワーコントロールユニット(PCU)」を搭載した実験車両の公道走行を行うなど、着々と半導体関連技術の蓄積を進めている(図4)。ただし、現時点で同社グループが開発したデバイスを自社生産する動きは見せていない。完成車メーカーにとって、半導体の生産は手に余る事業であり、単独で実用化まで持って行くことは困難である。この部分では、SiCパワーデバイスの実車投入を前に、完成車メーカーと半導体メーカーの間で何らかの大きな動きが出てくると予想される。

 

図4

図4 完成車メーカー主導で進められる電動車両の半導体技術開発

(左)SiCパワーデバイスを採用したインバーターを搭載したハイブリッド車の実験車両
(右)SiCパワーデバイスを組み込んだPCU
出典:トヨタ自動車

 

百年に一度と言われるクルマの大変革が進む中で、自動車産業そのもののあり方と形が、大きく変貌していこうとしている。その過程で、半導体メーカーはいかなる役回りを演じるかが、将来の半導体産業の発展にも大きく影響してくることだろう。半導体業界のみならず、様々な業界から出展社や来場者が集まるSEMICON Japan 2018の会場では、こうしたこれからの自動車産業の行方、さらにはそこでの半導体産業の役割を垣間見ることができるだろう。

 

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